たった三日のうちに、みな指の間からずり落ちて、残ったのがわずか三百法。そこで思い付いたのがこの花馬車競技でございます。一等賞を取れば五千法。……これに限ると、四輪馬車に馭者《ぎょしゃ》をつけて一日二百五十法で借り、「生きた花馬車」を作りました。もともと花を買う金などはないので、花は、――薔薇の模様の着物を着た、つまり私自身なんでございました。さて、その後の次第はもうお話申しあげるまでもないことでございます。ただ今手元にありますのは、五十文《サンカンサンチーム》の真鍮玉一つ。……ここにおりますのは、夜会服《ソワレ》を着た乞食でございます。でも、私は満足でございますわ。世にも名高いニースの花合戦に加わり、一等を争って敗れたのでございますもの。天晴《あっぱ》れ華々しい最後と申してよろしゅうございましょう。では、アイス・クリームの溶けぬうちに、そろそろお暇《いとま》いたします。はなはだ勝手でございますが、これで失礼させていただきとう存じます。はい、何でございますか? ワルソオへ帰りますには、三千法もあれば充分なのでございます。ああ、懐かしいヴィスチュウルの河よ! ちっちゃな電車よ! 私の金糸鳥
前へ 次へ
全34ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング