たを一|匙《さじ》喰べて見て、「おや、これは上出来だ」などと申すことでございましょう。いいえ、どうかお止《と》めにならないで下さいまし。私はどうしてもこの世に生き長らえていることのできぬ身体《からだ》なのでございます。まあ! 本当にお優しいお嬢さま。……では、ご親切に甘えまして何もかもお話し申しあげてしまいます。何を隠しましょう。私はこの一月に二十万ズロオチイ、つまり二十万|法《フラン》を持ってモンテ・キャアロに参りました。実はこれを百倍にして波蘭土《ぽーらんど》の戦債を払うつもりだったのでございます。さて、球賭盤《ルウレット》の象牙玉に連れて廻る、人の運などというものは、本当に不思議なものでございますわ。一時は十五万|法《フラン》以上も勝ち越して、「|凄腕の波蘭土女《ポロネエズ・テリイブル》」とまで綽名《あだな》された私も、落目になると恐ろしいもので、赤へ賭ければ黒と出る、3へ張れば4と出るというわけで、勝ちあげた十五万法は朝日の前の霜と消える。そうなると焦《あせ》るからたまりません。覚えのない三十《トランテ》・四十《キャラント》をやる、銀行賭博《バカラ》をやる、手持ちの二十万法は、
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