・ド・ジャルダン》」に比べましたら、私の花馬車などは、蘭の前の菠薐草《ほうれんそう》のようなものでございます。でも、ただ一つご記憶を願いたいのは、お両人《ふたり》の花馬車がございませんでしたら、私の「生きた花馬車」は、きっと一等になっていた、ということでございます。ああ、五千|法《フラン》の賞金! まるで夢のようでございますわ。わずか一点の差で勝ったものと敗れたもの、……つまり、五千|法《フラン》対零|法《フラン》の二人の競走者《リヴァル》が、こうして卓を隔てて会話をいたすと申しますのも、何かの因縁《いんねん》でございましょうから、なにもかも打ち明けてお話しいたしましょう。何を隠しましょう。私は今晩凍死をして自殺する決心なのでございます。私は先刻《さきほど》、大桶に一杯のアイス・クリームを部屋に取り寄せておきました。それを皆喰べてしまいましたら、そっと料理場へ降りて行って冷蔵庫へ入り外から錠をおろしてしまいます。すると、有難いことには、私は明日《あす》の朝までには、多分アイス・クリームで作った人魚のようにコチコチに固まっているのに違いありません。そして、ホテルの料理番は私の頬《ほ》っぺ
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