ょうさん》。撫子染《なでしこぞ》めの長き振袖に、花山車《はなだし》を織り出したる金繍《きんらん》の帯を締め、銀扇を高くかざしていたったるは、花束もてこの扇を射よとの心であろう。倨然《ぎぜん》たる戦車《タンク》の後尾に樹てられし旗竿には、ああ、南仏の春風に翩翻《へんぽん》と翻る日章旗。
四、五人目の祝賀客は波蘭土《ポーランド》製のアイス・クリーム。紹介もなく突然お邪魔にあがりました失礼は、どうぞ謝肉祭《キャルナヴァル》に免じておゆるし下さいませ。それと申しますのは、私は突然、今晩遠いところへ旅立ちしなくてはならぬことになったからでございますの。ずっと、ずっと、ずウっと遠いところなんでございます。それはさて、私は一昨日《おととい》、お両人《ふたり》様と[#「お両人《ふたり》様と」は底本では「お両《ふたり》人様と」]花馬事の一等賞を争いました「生きた花馬車」でございます。いいえ、つまり、そのマダム・ルウジュなんでございますの。本当に惜しいところで敗北いたしましたが、でも、もちろんでございますわ、審判官《ジュリイ》の眼に狂いはございません。お両人《ふたり》の「|花園を護るもの《ギャルディアン
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