ウ》。君はいま、あたしの車を touf−touf《ぼろじどうしゃ》 だといったね。ぼろだって芥箱《ごみばこ》だって大きなお世話だよ。君の自動車を持って来てごらんなさい。どっちが touf−touf《ぼろじどうしゃ》 だかくらべて見てあげるから。なんだイ、髯なんか生やして。……それから、そっちの夫人《マダム》、君はさっき(このやりきれない pouce−pouce《うばぐるま》)といったね。そォお、乳母車のように楽に押せるかどうか、ひとつやって見てくれない?……ねえ諸君、動かないのは車のせいじゃないんだよ。アスファルトのせいなんだよ。こんなところへアスファルトなんか敷くからいけないんだ。これでも苦情があるならいってみてくれない。……さ、誰れでもいいから出ておいで!」
すると、声に応じて心得ありげな一人の流行的紳士が、群集の中から進み出て車の前蓋を開け、しきりにそこここと検閲していたが、さすがの彼もこの超科学的な発動機械には手の付けようがないらしく、やがて諦めて引きさがった。
群集一同は、この紳士を中心にして、しばらく額を集めて協議していたが、やがて衆議一決。タヌの気焔《きえん》に頓着
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