「を基点として、南は仏伊の国境マントンに至る、ここは仏蘭西の※[#5分の4、26−上−8]を縦に貫く坦々たる国有道路《ルウト・ナシォナアル》。この大道を、磨き上げられた宝石のごとき [#ここから横組み]Peugeot−“103”[#ここで横組み終わり]、海鱸《あしか》のごとき Renault の Les Stella、さてはロオルス・ロイス、イスパノスュイザ、――おのがじし軽やかな警笛《シッフル》と香水の匂いを残して、風のごとく爽《さわ》やかに疾駆するうちに、模様入りの考古学的な自動車が、大いなる蝙蝠傘《こうもりがさ》をさした二人の東洋人を乗せ大工場の移転のごとき壮大な爆音をたて、蒙々たるギャソレンの煙幕を張って、あたかも病みあがりのロイマチス患者のごとき蹌踉《そうろう》たる歩調《あしどり》で、大道狭しと漫歩しているのは、まことに荘重類ない眺めであった。進むと見ればたちまち退き、右によろめき左にのめくり、一|上《じょう》一|下《げ》、輾転反側。さればコン吉は、手鍋《キャスロオル》の中で炒《い》られる腸詰のごとく、座席の上で転げ廻りながら、ここを先途《せんど》と蝙蝠傘に獅噛《しがみ》つい
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