どなり出した。まず、長男のジャックがどなり、続いて二番目のジャックリイヌが「鳥貝のスウプでない」と金切り声をあげ、三番目がわめき、一番チビの半悪魔までが、「鳥貝のスウプでない!」と拒絶する始末。コン吉とタヌは、王様にしかられた大膳職のように懼れ畏んでスウプの皿を引きさげ、今度は青豌豆《あおえんどう》のそえ物を付けた、犢《こうし》の炙肉《やきにく》の皿を差し出したが、これもまた、
「これは、車前草《おんばこ》の擂菜《ピュウレ》でない!」という合唱的叫喚《シュプレッヒ・コオル》によって撃退された。いろいろとききただして見たところ、この二つがこの島の常食だということが始めて判明したが、この頑迷|固陋《ころう》な小仏蘭西人達は、他《た》のすべての大仏蘭西人達と同じように、容易に日常の主義を変えないことに、はげしい衿持《きんじ》を[#「衿持《きんじ》を」はママ]持っているものと見え、コン吉とタヌが口を酸《すっぱ》くし、甘くし、木琴のように舌を鳴らして喰べて見せても、一向に動ずる気色がないばかりか、最後に差し出したヴァニイル入りのクレエムなどは、皿のまま放りあげられ、いたずらに天井の壁に、黄色い花
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