か、大学病院の産婦人科へ電話を掛けて、ご懇意の先生と連絡をとっといていただきましょうね。そんなこともあるまいけど、むずかしくなったらすぐ駈けつけて来てもらえるように、わかりましたね。……それから、保羅《ぽうる》さんに、礼奴《れいぬ》さん、そんな吃驚《びっくり》したような顔をして、ウロウロしていないで、元気よく歌でもお唄いなさい。……ああ、そうだ、植木屋のお爺さん、あなた、提灯《ちょうちん》をつけて、盥《たらい》を探して来てちょうだい。お嬢さんたちじゃ危なかろうから」
御母堂の命令に従って、みなが、忙がしそうに働き出す。
キャラコさんと梓さんたちの組は、大騒ぎをしながら、竈《へっつい》の周囲《まわり》でウロウロする。苗木屋のお爺さんが、提灯へ火をつける。礼奴さんと保羅さんは、何を考えたか、大きな声で、『サンタ・ルチア』を歌い出した。これも周章《あわて》ているのに違いない。
そこへ、産婆さんが、あたふたと駈けつけて来た。この破屋《あばらや》に花のようなお嬢さんたちだの、厳《いか》めしい八字髭などが大勢目白押ししてるので、おやおや、と、吃驚《びっくり》してしまう。
茜さんが、酔ったよ
前へ
次へ
全31ページ中28ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング