わけですから、できるだけにぎやかにして、心細くなく、安心して生ましてあげたいと思って、それで、ご無理をいって、みなさんに来ていただきましたの。ただ、ここに坐っていて下さるだけで、充分なのよ。あの気の毒な茜さんに、どうぞ、力をかしてあげてちょうだい」
長六閣下が、まっ先に、うなずいた。
「うむ、よかろう」
イヴォンヌさんが、手を拍《たた》きながら踊りあがった。
「まァ、素敵だこと! 赤ちゃ[#「赤ちゃ」はママ]が見られるわ」
五人のお嬢さんたちが、一斉に手をたたいた。
「わァ、万歳! 万歳!」
襖の向うから、茜さんが力弱い声で呼び立てる。
「キャラコさん、……キャラコさん」
キャラコさんが、威勢よく襖を開けて茜さんの枕元へ飛んで行く。茜さんが、もの怯《お》じしたような眼付きで、キャラコさんを見あげながら、
「キャラコさん、いったい、何が始まったんですの」
キャラコさんは、襖のところまで戻って行って、そこを一杯に引き開ける。
「茜さん、ちょっと、見てごらんなさい。ここに、こんなに大勢のひとがいますよ。あなたに元気をつけて、立派な赤ちゃんを生んでいただくために、東京から自動車で駈
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