話を掛けた。驚いて、沼間夫人が電話口へ出て来た。
「たいへんなことが始まっているんですから、ボクさんだけを除《の》けて、皆んなですぐここへやって来てちょうだい。今日は、あたしのための送別会なんですから、何もたずねないであたしのいう通りにしてね。ひとり残らず自動車に乗って、こっちへやって来てください。すぐね。……どうぞ、すぐね」

     四
 警笛が、草原いっぱいになって、威勢よくヘッド・ライトを光らせた自動車が、十二三台、次ぎつぎに前の荒畑へ乗り込んで来る。
 長六閣下。沼間夫人と森川夫人。槇子《まきこ》と麻耶子《まやこ》。梓《あずさ》さんをはじめ五人のやんちゃなお嬢さんたち。秋作氏。久世《くぜ》氏。保羅《ぽうる》さんに礼奴《れいぬ》さん。四人の科学者たち。それから、まだ続々。最後の車から、御母堂と苗木売りの老人がゆっくりと降りて来る。産室の隣りの二間に、これだけの人数が、ギッチリと詰まってしまった。
 みなが魂消《たまげ》たような顔をして坐っているのへ、キャラコさんが、中腰のまま、かいつまんで事情を話した。頑固な愛人のお母さんのことや、尻込みばかりしている愛人のことも。
「こんな
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