座の空気は、しっくりとして、たいへんなごやかなものになる。
長六閣下が立って、簡潔な言葉で挨拶した。
「剛子《つよこ》のこれからのことは、ひとえに、剛子の精神の上に懸《かか》っているのです。この通り、まだ未熟な者ですから、海のものとも山のものともわからんのにかかわらず、皆様、よくお出で下さって、このような盛んな御声援を賜わったことは、まことに有難いことでした」
イヴォンヌさんに肘で突かれて、キャラコさんが、すこし上気したような顔で、立ち上る。
「わたくしは、改まって申し上げることなどは、何もございません。皆様だって、わたくしが鯱固張《しゃちほこば》った演説なんかするのを、あまりお聞きにはなりたくはないでしょうからね。……わたくし自身についていえば、じぶんの力をどの辺まで信用していいのか、全くわかっていないのですから、しっかりやって来るなんてことも、威張って申し上げられませんの。もう、これくらいにしておきますわ」
食事が始まった。
食事の合間々々に、みなが簡単な自己紹介をし、じぶんとキャラコさんとの間にどんなことがあったか、要領よく披露した。
馬のほうは、ただ、ひひんといなない
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