してる。……早く始めてちょうだいって」
沼間夫人も、やって来る。
「ねえ、キャラコさん、もう、始めましょう。あまりお待たせしては、悪くてよ」
キャラコさんが、しょんぼりした声を、だす。
「我ままなようですけど、あたし、みなの顔が、ひとり残らずそろってから、始めたいの。どうぞ、もう五分だけ待ってちょうだい。それでも、いらっしゃらなかったら、始めていただきますわ……。ねえ、もう、五分だけ」
キャラコさんは、客間から駆け出して、玄関の車寄せのところまで行った。
「茜さん、あなたをひとりはずして始めるというわけにはゆかないのよ。どうぞ、早くやって来て、ちょうだい」
円形植込《コルベール》の両側をめぐって、門のほうへ混凝土《コンクリート》の白い道がつづき、その上に秋の月が、蒼白い光を投げている。
キャラコさんは、ポーチの柱にもたれて、茜さんを待っていた。五分たったが、白い道の上に人影は射《さ》さなかった。
キャラコさんは、しおしおと客間へ戻って来ると、つぶやくように沼間夫人に、いった。
「どうぞ、始めて、ちょうだい」
賑《にぎ》やかな晩餐が始まった。
長い食卓の端から見渡すと、両
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