みいた》がほこりっぽく木目を浮きあげる。雨の日は、看板のうしろの窓の鎧扉《よろいど》が、ひっそりとしずくを垂らしていた。
キャラコさんは、土手《どて》三番町の独逸《ドイツ》語の先生のところへゆくので、一週間に二度ずつこの家の前を通る。
飾窓のなかには、脚《あし》のとれた写字机《ビュウロオ》や、石版画の西洋の風景や、セエブル焼きの置時計、壊れた手風琴《てふうきん》、金|鍍金《メッキ》の枝燭台《えだしょくだい》、さまざまな壺や甕《かめ》、赤く錆びた三稜剣《エペ》。……そんなものが、窓掛けの透間から差しこむ光線の縞《しま》の中で、うっすらとほこりをかぶって押し並んでいる。
いつか、なにげなくその中を覗《のぞ》いたのが癖になって、行き帰りのたびに、かならずいちどはこの飾窓《ショウ・ウインドウ》の前で足をとめる。
どれもこれも、古び、傷つき、こんなものを買うひともあるまいと思われるようながらくたばかりだが、たとえば、脚のとれた写字机《ビュウロオ》にしろ、ホヤのない真鍮《しんちゅう》の置|洋灯《ランプ》にしろ、それぞれ、長いあいだの手ずれの跡や、時代のかげがはっきりと残っていて、それをなが
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