いだと形付《かたちづ》けてしまえないようなところがあるように思われ出してきたのです。稚《おさな》い詩心《リリスム》のほかに、なにかもっと別な意味があるのではないだろうか、って……。
 ボクさんが、星の世界へゆくというのは、想像の中の遊戯でなしに、なにかの比喩なのではないのかしら。……ボクさんが憧憬《あこが》れているのは、実は、ほんとうの『星の世界』のことなのかも知れない。
 こんなふうにかんがえて来ますと、あたしは不安になって、その晩は、とうとうマンジリともしないで明かしてしまいました。
 あたしは、午前中、じぶんの部屋の椅子に坐って、どうしたらこの手に負えない奇妙な不安から逃れることができるかと、いろいろにかんがえていましたが、結局、あたしの力ではどうすることもできないことに気がつきました。最初は利江子夫人にこの不安を打ち明けようかと思いましたが、なにしろあんなヒステリックなかたですから、そのために、ボクさんに、どんなひどいことをするかわかったものではありません。そうすると、これをうちあけるひとは久世氏よりほかはないのです。
 一方からいうと、これはたしかに突飛《とっぴ》なはなしです
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