より軽くなったんだとかんがえてください」
「かんがえました」
「ほら、ズンズンあがってゆくでしょう。……ズンズン、ね」
「ほんとね」
「……そろそろ、風が冷たくなりましたね」
「いい気持よ」
「ここは、大熊星《だいゆうせい》のそばです。……耳んところで、風がヒュウヒュウいうでしょう」
「ええ、……ヒュウヒュウいうわ」
「もっと上へゆきましょうね。……もっと高く……もっと高く……」
「……もっと高く、……もっと高く……」
ボクさんの声が、だんだんおぼろ気《げ》になります、ほの暗い庭の隅で。
間もなく、寝息がきこえてきました。ボクさんが星の世界から帰ってきたのは、それから一時間ほど経ったのちのことでした。
五
あたしは、次の日の午後、久世氏の事務所の応接間の、大きな皮張りの椅子にキチンと掛けていました。
なんともいえぬ奇妙な感情が、昨夜《ゆうべ》からあたしを悩ましているのです。予覚といったようなごく漠然としたものなのですが、それを久世氏に聞いてもらいたいと思って、それでやって来たのです。
ひと口にいいますと、ボクさんの星の世界への憧憬《あこがれ》は、かんたんに敏感のせ
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