、いいました。隆男兄さまが、
「くだらん、放っておけ」
 と、いわれなかったら、もっとひどいことをいい出しかねないようなようすでしたの。
 お兄さまたちはお兄さまたちとして、あたしにはあたしのやり方ってのがあるわけなの。隆男兄さまのご意見には関係なく、あたしは、これからお隣りの傍若《ぼうじゃく》夫人(あたしの洒落も捨てたもんでないでしょう?)のところへ出かけて行って、お互いに住みよくするために、どういう連帯心が必要か、どの程度まで、個人の自由を見捨てなければならないものか、その辺のところをよくうかがってくるつもりなのです。(たしかに、あたしは、すこし腹を立てています!)
 この始末については、今晩またくわしく御報告いたしますわ。

     二
 英吉利《イギリス》ふうの破風《はふ》のついた、この古い洋館は、あなたのお気にいりの建物でした。でも、もう、久しい間|空屋《あきや》になっていましたので、敷石のあいだから雑草が萌《も》えだし、庭の花圃も荒れほうだいに荒れて、見るかげもないようになっていました。
 いくども呼鈴《よびりん》をおしましたが、誰れも扉《ドア》を開けにきません。二階のほ
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