けず劣らずにその辺をころげ廻ります。言葉では、とても二人のよろこびを表現することできないようなんです。
ぞんぶんに暴れると、ようやく落ち着いて、できるだけより添って坐ります。
「キャラコさん、ボク四時ごろから目を覚ましていましたの。いくども時計を見たか知れないの」
「ボクさん、そうなのよ、あたしもそうなの」
そういいながら、手早く草の上にナプキンをひろげます。サンドイッチが、白と朱肉色の切り口を見せて坐っています。赤い林檎《りんご》と冷たい蜜柑水《みかんすい》!
ボクさんは、あまりうれしくて、すぐ手をつけるわけにはゆかないのです。塀のずっと向うまで駆けて行って、また駆け戻って来ます。それから食べるんですが、あわてふためいて、何もかもいっぺんに嚥《の》み込もうとするもんだから、喉をつまらせて、眼にいっぱい涙をためます。あたしは、いそいで蜜柑水を一口飲ませてやります。見る間に、サンドイッチが消えて無くなる。こんどは林檎です。
ボクさんは、可愛くってたまらないというふうに、それを胸に抱きしめて、
「林檎さん、林檎さん」
と、いいながら、頬ずりをします。
あたしが、さいそくします。
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