めんなさい。……『誓約』をしますから、ゆるしてちょうだい。ああ、腕が、ちぎれる……。
――ほんとうですね。
――ええ、ほんとうです。
――そんなら、『誓約』をしたらゆるしてあげます。……やってごらんなさい。
――「ボク、ママ、だいすきです。パパはいけないひとで、ボクを……」
――立って『誓約』するひとがありますか、ちゃんと、床の上へ膝をおつきなさい。
――はい、ママ。……「いけないひとで、ボク、パパのところへ一生帰りません。もし、パパが来たら……」
――どうしたの、そのあとは?
――「ボク、パパ嫌いだと大きな声で、……いって……いってやります」
――忘れないようになさい。パパが来たら、きっと、そういってやるのよ、いいわね。
――ええ、きっといいます。……ママ、ボク、捏粉菓子《ブリオーシュ》をひとついただいてもいいかしら?
――いけません。あなたには、ちゃんと黒パンが買ってあります。
――では、半分だけ……。
――うるさくいうと、いつかのように、口の中へお雑布を詰め込んであげてよ。いいから、もう、こっちへいらっしゃい。
お兄さま。あなた、あたしをほめてくだす
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