つに隠れなければならないようなわけはありません。あたしはきょう傍若夫人に逢いに来たのですから、帰ってきたというなら、ちょうど幸いです。ボクさんのことも孔雀《くじゃく》のことも、なにもかも、ひとまとめにして、思いっきりいってやらなければおさまらないような気持になってきました。あたしとしては、たいへんな激昂《げきこう》ぶりでしたの。
 それで、あたしは、そういいました。
「あたしたち、べつに悪いことをしていたわけではないでしょう。あたくしから、よくお話しますわ」
 少年は、泣き出しそうな顔になって、
「いいえ、いけないの。あなたは何もごぞんじないんです。そんなことをしたら、あとで、ボクほんとに困るんですから。……ほらほら、こっちへやってくる……」
 少年は、気がちがったようになって、すぐそばの小部屋《こべや》へあたしをむりやり押し込むようにしながら、
「どんなことがあっても、ボクを助けに来ないって、約束してちょうだい」
 腹が立ってたまらないけど、しょうことなしに、渋々、こたえました。
「ええ、お約束してよ。つらいけど、あなたのおっしゃるようにしますわ、お坊ちゃん」
「つらくとも、どうか、
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