ぞ。リットルなんていわれて、黙っているわけにはゆかないわ。……英語の『リットル』という言葉のなかには、たしかに、軽蔑する意味もあると思うんだ」
ピロちゃんが、大真面目《おおまじめ》に、うなずく。
「あたしも、そう思う。……あの英吉利《イギリス》人のやつ、たしかに、あたしたちを馬鹿にしているんだ」
黙って水浴着《マイヨオ》の裾を引っぱっていた芳衛さんが、すこし皮肉な調子でいった。
「ほんとうに、(リットル)ではいけないわねえ。……でも、お見受けするところ、どなたも、(グレート)とはいえないようだわ」
このひと言のために、筏の上は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「芳べえのばかやろ。国民精神が稀薄だぞ!」
「ひとの真面目な議論をまぜ返すのはよくないです」
芳衛さんは、みなにやり込められて黙ってしまった。
一人前の淑女たちを『リットル・ウィメン』などと呼んだ仕返しに、ワイズミュラー君のことを『ローリーさん』と呼ぶことにした。小説では、『四人姉妹』の隣りに住んでいる、ローレンス家のちっちゃな坊やの名前である。
二
いっぱいに開け放した硝子扉《ケースメント》から、薄荷
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