グ》、|お嬢っちゃん《リットル・ウィメン》」
 と、挨拶しながら、浮筏《ラドオ》のそばを泳ぎ抜けてゆく。
 皆の意見は、英国人だということに一致している。かくべつ根拠のあることではない。言葉使いが丁寧で、アクセントが綺麗だからという理由によるのである。年齢については、陽気なピロちゃんが、こんなふうに断定をくだした。
「あの英吉利《イギリス》人は、今年、二十七なのよ」
 詩人の芳衛さんが、訊《き》きかえした。
「ふうん、どうして、二十七なの」
 ピロちゃんで威厳をもってこたえる。
「どうしてってことはないさ。ワイズミュラーは今年二十七でしょう。だから、あの英吉利《イギリス》人も二十七でなくちゃならないんだ」
 なるほど、ワイズミュラーによく似ている。映画に出てくるワイズミュラーのようにふやけた顔はしていないが、身体の釣り合いや、腕の長すぎるところなんか、たいへんよく似ている。いかにも若々《わかわか》しく、元気で、そのくせ、考え深そうな眼付きをしている。
 それにしても、ずいぶん遠くから泳いで来るのだとみえて、浮筏《ラドオ》のそばを通り過ぎるころは、いつでもすこし疲れたようなようすをしてい
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