ったかしら。……よく、気をつけてなかったけど」
 鮎子さんが、突然、大きな声を出す。
「たしかに、いたような気がする!」
 ピロちゃんが、うなずく。
「そういえば、なるほど、そうだったかも知れないわ」
 キャラコさんが、いった。
「ローリーさんというひとは、毎朝、そのヨットから泳いで来るのじゃないかしら」
 なるほど! ピロちゃんも、鮎子さんも、トクべえさんもゾクッとしたような顔で互いに眼を見合わせた。
 キャラコさんが、つづけた。
「……赤い帆のヨットが、定《きま》った時間に、きまった場所へやって来るのだとすると、従って、ローリーさんも、毎日、きまった時間に、きまった場所から岸へ泳いでいることになるわけね」
 三人が一斉に叫ぶ。
「そうだわ!」
 ピロちゃんが、真剣の眼付きで、
「でも、なぜ、そんなことをするのかしら?」
「それは、あたしにもわからないけど、こんなことは考えられるわね。……もちろん、これは、あたしの想像よ。……ともかく、ことさら、赤い帆をつかったりするのは、どこからでもはっきり見えるようにするためで、蝶々のような風変りなかたちの帆をあげるのは、他のヨットと紛らわしくな
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