日、三時になると、女王様のようにそっくり返ってローリーさんたちの『お茶の会』へ出かけて行くんだ。……そのお茶の会っていうのは、SSヨット倶楽部《くらぶ》の連中の会で、気障《きざ》なシャナシャナした男や女が大勢いるんだって。……これが、『虚栄の市へ行く』ということなの」
 ピロちゃんが、頓狂な声をだす。
「……ヨットといえば、キャラコさんに、まだ『赤い帆のヨット』の話をしなかったね、トクべえさん」
「そう、まだしなかったわ」
 トクべえさんが、れいの感じ[#「感じ」に傍点]を混《ま》ぜながら、奇妙な赤い帆のヨットの話をした。
 みな、芳衛さんのほうを忘れてしまって、赤い帆のヨットについて、思い思いの意見を述べたてた。
 鮎子さんが、いった。
「キャラコさん、海流からはずれたところで、わざわざ魚を釣るなんて馬鹿なはずはないんだけどあなたどう思う?」
 キャラコさんの頭に、ちょっとした考えがひらめいた。
「……ローリーさんが、毎朝、ずっと沖から泳いで来るといったわね。……その時、沖に、赤い帆のヨットがいるの? いないの?」
 トクべえさんが、考えるような眼付きをしながら、こたえた。
「どうだ
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