て来て、おおはしゃぎにはしゃぐところなのに、ひとりずつ窓際の椅子にかけて、うっそりとうつむいている。
「おやおや、どうしたんです。みな、ひどく元気がないわね」
ピロちゃんが、ニヤリと愛想笑いをする。そして、すぐまた、むずかしい顔をつくる。
キャラコさんが、ニコニコ笑いながら、一人ずつ顔を眺めわたす。
「また、何かあったのね? ……何があったの? ……『メグ虚栄の市へ行く』って、いったい、何のこと?」
鮎子さんが、しぶしぶ、口を切る。
「メグ、ってのは、芳衛さんのことで、虚栄の市、ってのは、海浜《かいひん》ホテルのことなの」
「面白そうな話ね。……つまり、芳衛さんが海浜ホテルへ遊びに行ったということなのね」
ピロちゃんが、うなずく。
「ええ、そう[#「ええ、そう」は底本では「ええ、、そう」]なの」
「でも、海浜ホテルが『虚栄の市』ってのは、なぜなのかしら」
鮎子さんは、首をふって、
「海浜ホテルが『虚栄の市』だというんじゃないの。それには、もっと別なわけがあるんです」
そういって、ピロちゃんとトクさんのほうへ気の弱い眼差しを向ける。
「話しても、いいかしら?」
ピロちゃんが
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