、怒ったような声を、だす。
「鮎子さん、あんた、今日、ハキハキしないわね。キャラコさんに隠して、あたしたちだけで、うまくやれると思っている?」
「そうは思わないよ。……ただね、キャラコさんがいないと、すぐ、妙ちきりんなことばかり始まるんで、うんざりしてしまうんだ。……少女期ってのは扱いにくいね。……とにかく、ひどくむずかしいや、ひとのことでも、自分のことでも……」
 トクべえさんが、上品な声で、口をはさむ。
「あたしだけの感情を述べさしてもらえるなら、いま、そんな呑気《のんき》なことをいってはいけないのだと思うわ。……あたしだけが、そんなふうに感じるのかも知れないけど、今度の事件は、あたしたちが気づかないところに、なにか重大なことがたぐまっているような気がしてしようがないの。あたしたちなんかには、手のつけられないようなものが、モヤモヤしているように思われるのよ。……うまくいえないけど」
 キャラコさんが、沈着な顔つきで、いう。
「とにかく、何があったのか話してみたらどうかしら。……できるだけ、くわしくいってみてくださいね。……感じたことではなく、なるたけなら、眼で見たり、耳できいたりし
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