てしまう。
 毎年の例ならば、寝間着とラケットが同居したり、鞄《かばん》がひっくり返ったり、戦場のような騒ぎになってるのに、見ると、いろいろな遊戯《ゲーム》の道具は、みな、ちゃんと棚の上に片づけられ、ラケットは袋に納められて釘にかかり、靴やサンダルは爪先をそろえてズラリと窓際へ並べられてある。床はきれいに掃《は》かれているし、花瓶の水もまだ新しい。まるで、兵舎の舎室のような整然たるようすをしている。
 キャラコさんが、笑いだす。
「おやおや、たいへんだ。どうしたというのかしら……」
 ふと見ると、毎日の献立《こんだて》を予告する黒板に、大きな字で、こんなことが書きつけてある。

[#ここから3字下げ]
メグ『虚栄の市《いち》』へ行く
[#ここで字下げ終わり]

『メグ、虚栄の市へ行く』というのは『四人姉妹《リットル・ウィメン》』の第九章の小標題《こみだし》だが、しかし、これが何を意味するのか一向わからない。
「何のつもりで、こんなことを書きつけてあるのかしら。……きっと、また、何かあったのにちがいないわ。……ほんとに、手に負えないひとたちだこと」
 釘にかかっていた望遠鏡をはずすと、硝
前へ 次へ
全33ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
久生 十蘭 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング