いけないんだ。ゆっくり持ってこう、ゆっくりね。……筏にのっけたら、あとは、岸まで筏を押していけばいいんだから、わけはないや」
 手足を持って四人で泳ぎだす。みな元気になる。陽気なピロちゃんが、頓狂な声をだす。
「でも、ずいぶん、でっかいなァ。……大《だい》人命救助だぜ、これァ」
 みな、ぷッとふき出す。
 ローリーさんを筏に押しあげるのがひと苦労。筏の鎖をはずすのでまたひと騒動。しかし、どうにか、それもうまくゆく。ローリーさんは、長い手足を筏からはみ出させ、筏の上に頬をつけて、ぐったりと眼をつむっている。
 四人の青年隊《ユーゲント》は、
「え※[#小書き片仮名ン、252−上−15]やサ、え※[#小書き片仮名ン、252−上−15]やサ」
 と、勇ましく掛け声かけながら、筏を押して岸のほうへ泳ぎ出した。

     三
 キャラコさんが、やって来た。
 ひとつずつ部屋をのぞく。
 女中もいれないで四人だけの『神聖の間《ま》』になっている海に向いたサンルームの扉をあけてみたが、ここにも誰もいない。
 ところで、思いがけなくどの部屋もキチンと片づいているので、これにはキャラコさんもびっくりし
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