すッと走る。チラチラと互いの顔を見かわす。みんな蒼い顔をしている。三人の眸《ひとみ》が、たがいに、どうしよう、どうしよう、といっている。
 鮎子さんは、両手で膝をかかえながら、
「……どうしたんだろうな、腓返《こむらがえ》しでもしたのかなァ」
 と、ひとりごとみたいにつぶやいていたが、だしぬけに、ザブンと水の中へ飛び込むと、鮮やかなクロールでローリーさんのほうへ泳いで行く。
 これで、三人も決心がつく。間《ま》をおかずに、すぐボチャン、ボチャンと飛び込む。
 三人が行きついた時には、ローリーさんは、もう浮きあがる力がなくなって、水の表面から三尺ほど下のところで、俯伏《うつぶ》せになったままゆらゆらと不気味にゆれていた。
 鮎子さんが、三人のほうへふりかえる。
「あたし、いま、引っぱりあげてくるからね、手足をつかまえて、みんなで筏《いかだ》ンとこまで持って行こうよ」
 白い蹠《あしうら》をヒラヒラさせながら、いったん、ずっと深くもぐって、両手で下からローリーさんの腹を押しあげるようにして浮いてきた。顔じゅう、水だらけにしながら、
「大丈夫だよ。まだ、死んでやしない。……狼狽《あわて》ちゃ
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