りて誰も寄りつかなくなってしまった。
そこで、止むを得ず、四人だけで仲良く筏のうえに攀《よ》じ登る。
空には、ひとひらの雲もない。海は紺碧の色をして、とろりと微睡《まどろ》んでいる。濡れた肌にほどよく海風《うみかぜ》が吹きつけ、思わずうっとりとなる。どうも、これは退屈だ。
鮎子さんが、脾肉《ひにく》の歎《たん》をもらす。
「つまらない、誰かやって来ないかな」
すこし離れたところで、麒麟《きりん》の浮嚢《うきぶくろ》で遊んでいる五六人のお嬢さんの組へ叫びかけて見る。
「おゥい、やって来いよゥ」
お嬢さんたちは、聞えないふりをして、自分らだけできゃッきゃと騒いでいる。昨日《きのう》、四銃士にさんざ水を飲まされた連中だ。
鮎子さんが、口惜《くや》しがって、ぶつぶついう。
「よゥし、あとでひどい眼にあわしてやる」
この時である。注意散漫のピロちゃんが、また妙なものを見つけた。
「おや、ローリーさんが、あそこで妙なことをしている」
なるほど、すこし妙だ。
いつもは、ゆっくり過ぎるくらいゆっくり平泳《ブレスト》で泳いで来るのに、今日はどうしたというのか、まるで癇癪でも起こしたよう
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