デスク》なんてものじゃない。まるで、城のように、絶壁のようにそそり立って、冷然とキャラコさんを見おろしている。抽斗《ひきだし》は、みな、キュッと口を結んで触《さわ》りでしたらただではすまさないぞ、というふうに意地の悪い眼をむいている。
キャラコさんは、ムッとする。敵愾《てきがい》心を起す。
(やろうと思えば、こんなことぐらいわけなくやれてよ)
思い切って手を伸ばす。右の、上から二番目の抽斗《ひきだし》に指先が触れる。チカッと、火傷《やけど》をしたような痛みを覚える。指が抽斗の曳手《ひきて》にかかる……
その瞬間、なにか形容し難い戦慄が、電光のように頭のてっぺんから爪先まで差しつらぬいた。
自分のうしろで、なにか、物に触れ合うような異様な気配を感じた。キャラコさんは、ぎょッとして、ふりかえる。
この部屋の中に何かいる!
もの静かな息づかいをしながら、微妙に動き廻っているものがある。
気のせいではない。何か模糊《もこ》としたものが、まじろぎもせずに、じぶんを瞶《みつ》めている。
キャラコさんは、不安な眼差しで部屋の中を見廻したが、なにものも見当らない。寒々《さむざむ》とした
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