つくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]けてやっても、これだから……」
 遠くから庭下駄の音が近づいて来た。玄関から女中が顔をだす。
「ああ、そうか。よし、よし、すぐゆく」
 キャラコさんのほうへ振り返って、
「いますぐ来ますから、あなた、ひとりで入っていてちょうだい。税務署からひとが来たから……」
 そういい捨てて、女中と二人で母屋《おもや》のほうへ行ってしまった。
 キャラコさんが、書斎の入口に立つ。息づまるような瞬間がきた。
 書斎のなかは、妙にしんとしずまりかえり、時々、かすかに小鳥の翔《かけり》の音がきこえるほか、なんの物音もひびいて来ない。
 数寄屋《すきや》づくりの檐《のき》の深い建物なので、日射しは座敷の中まで届かない。窓のそとは、くゎッと明るくて、樹々《きぎ》の葉も、庭土《にわつち》も、白く燃えあがっているのに、部屋の隅々はおんどりとうす暗くていろいろな家具が、畳の上によろめくような翳《かげ》を落している。なんとなく妖《あや》しげで、これから犯罪が行なわれようとするのに、うってつけの場面である。
 大きな本棚の中で本が立ったり寝ころんだりし、鳥箱や、
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