いで、すこし運動していらっしゃい。……さァ、立ったり、立ったり……」
キャラコさんが、あきらめてシオシオと立ちあがる。
「まいりますわ。……でも、おばさま、一緒に行ってくださるでしょう」
母堂は、ぷッと噴《ふ》きだして、
「いやだ、このひとは。ひとりじゃ、こわいのかい。……ほんとうに、どうかしているよ、今日は。……よしよし、じゃア、一緒に行ってあげよう」
なんとなく、脚《あし》がふらつくところへもってきて、庭下駄の鼻緒《はなお》がうまく足の指にはさまらないので、キャラコさんは時々よろめく。首を垂れて、いわば、屠所《としょ》の羊といったぐあいにトボトボとついてゆく。
さっきは雲煙万里だと思っていたのに、こんどはいやに近い。ものの二十歩も歩いたと思ったら、もう離屋《はなれ》の玄関へ行きついてしまった。
式台の端の花|※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]《い》けに昼顔が※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]けてある。水をやらないものだから、花が、みな、のたりと首を垂れている。
「おや、おや、せっかく※[#「插」で
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