の自慢らしい顔といったらないのである。
 キャラコさんが、なにより懼《おそ》れていたのは、母堂のこの底知れない愛情だった。
 古い旗本《はたもと》の家で、ずっと濶達《かったつ》なくらしをして来たせいで、六十を越えたこの年になっても、相変らず、派手で大まかで、元気いっぱいに、男のような口調でものをいう。
 キャラコさんは、小さな時から、気さくで太っ腹な、この大叔母がだいすきだった。
 浜子夫人のほうも、寛大で謙譲《ひかえめ》で、そのくせ、どこは硬骨《ほね》のあるこのキャラコさんが大々《だいだい》のひいきで、進級祝いなどには、あッと眼を見はるような豪勢な祝品《いわいもの》をかつぎ込んだりする。
 いったん、キャラコさんのことになると、すっかり夢中になって、とろとろととろけてしまう。自慢で自慢でしようがなくて、行く先々で、精いっぱいに吹聴する。
「うちの馬鹿どもとちがって、剛子《つよこ》はほんとうにりっぱな娘です。あたしゃ、ほんとうに日本一だくらいに思っているんだ。夫人《おく》さん、あなたの前だけど……」
 そのひとの家へ、今日自分が、何をしに来たかとかんがえると、キャラコさんは、すこし情け
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