て、また、暴れまくるこッたろう。……ほんとうに、こんな暑い日に、よくやって来ておくれだった。……なんだろう、きょうは、ゆっくりして行っていいのだろう」
「ええ、べつに用事ではなかったのですけど……」
 胸の中に臆心《おくしん》があるので、いつものようなのんきな調子が出て来ない。
「あの……、あまり、ごぶさたしましたから、……きょうは、ちょっと、お顔を見におうかがいしましたの」
 相手がなんともいわないのに、あわてて、じぶんから、
「ほんとうよ」
 と、つけ足して、心の中で赤面した。
 もちろん、疑うようすなどはなく、ほくほくと眼を無《な》くして、
「そうかい、そうかい。どうか、ゆっくりしていってちょうだい」
 女中たちが廊下の端に固まって、なにかコソコソいってるのへ聴耳《ききみみ》を立てて、
「こらこら、なんだい、そんなところでコソコソと……。どうも、躾《しつけ》の悪い家でねえ、あんなところで垣のぞきをしている。……なにしろ、この家じゃ、あなたの評判がたいへんなんだから、新しく来た女中どもがあなたを見たがって、それで、あんなことをしてるのさ。まあまあ、すこし見物させてやんなさい」
 そ
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