フ優しいひとまでが! ……悲しいわ。……死んだほうがましだ。……もう、生きてなんかいたくない。あまり、辛すぎますもの……」
 レエヌさんの眼からあふれ出した涙が、枕の上へ滴《したた》り落ちて、ゆっくりと汚点《しみ》をひろげて行く。キャラコさんは、鎧扉へ額を押しつけて、泣くまいといっしんに我慢していたが、涙が勝手に流れ出して、いつの間にか頬をぬらしていた。
 レエヌさんは、夢の中のひとのような響きのない声で、
「……お兄さん、あたしたちは、いったいどうなるのでしょうね。こんなに辛くとも、まだ生きていなければならないのかしら。……日本人でもなければ、フランス人でもない。あわれな黄白混血児《ユウラジアン》。……お兄さん、あたしね、ヴァンクウヴァにいるとき、夕方になると、いつも、スタンリーの波止場へ出かけ行って、岩壁に腰をかけて鴎《かもめ》をながめていましたの。……渚に引き上げられた破船の船尾《とも》や潮で錆びた赤い浮標《ブイ》の上を、たくさんの鴎が淋しそうに飛び廻っています。……鴎にも故郷がない。……海も故郷ではない、陸《おか》も故郷ではない。……空の下をあてもなく飛び廻っているばかり……。
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