たしたちも、この鴎と同じようなものだと思って、なつかしくてたまらなかったの。……この鴎たちも、せつない郷愁《ノスタルジア》を運んで行くところがないのだと思って、ながめているうちに悲しくなって、いつも、泣き出してしまうの……」
 これが、レエヌさんのこころの秘密だった。自棄も、反抗も、無信仰も、みな、このやるせない絶望の中で熟成した不幸な気質なのだった。レエヌさんの意地悪も、強がりも、孤立も、奇矯《エクサントリック》なさまざまな振舞いも、今こそ、そのいちいちの意味がはっきりとわかるのである。
 キャラコさんの、心はしみじみとうなだれる。この気の毒なレエヌさんをにらみつけて、立ちはだかっていた、自分のすさまじいようすを恥辱《はじ》と慙愧《ざんき》の感情で思いかえす。
 キャラコさんは、手も足も出ないような心の無力を感じながら、低く、つぶやいた。
「……あやまらなければならないのは、あたしのほうよ、レエヌさん……」



底本:「久生十蘭全集 7[#「7」はローマ数字、1−13−27]」三一書房
   1970(昭和45)年5月31日第1版第1刷発行
   1978(昭和53)年1月31日
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