轤オをしているのかも知れない。
キャラコさんは、おだやかな笑いをうかべながら、いった。
「……あなたが、自殺しそこなう。その手紙を見て、驚いて、むかしの友達が駈けつけてくる。……二人が手をにぎる。……それから、どうなるの、レエヌさん……」
レエヌは、焦《いら》だって、敷布《シーツ》の端をもみくしゃにしながら、
「なんて奴だ。まだ嘘だと思っていやがる。……うしろを見てごらんなさい。あたしたちは、冗談をしてるわけじゃないのよ」
八
キャラコさんが、うしろを振りかえって見ると、いつの間にはいってきたのか、保羅が、濡れた髪をべったりと額にはりつけ、曖昧な薄笑いをしながら、大きな斧を持って扉《ドア》のところに突っ立っていた。酒気で真っ赤に熟した頬から、ポタポタと雫《しずく》をたらしている。
(どうするつもりだろう)
なぜか、すこしも危険は感じなかった。
「保羅さん、いまいろいろ、うかがっていたところよ。あたしを欺《だま》してこんなところへ連れて来て、いったい、どうなさるおつもり?」
保羅は、壁の凹みに斧を立てかけると、ジットリと濡れた外套の裾をまくりあげ、キャラコさんと向い
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