る音なの。……キャラコさん、あなた、もうここから帰れないのよ」
と、叫び立てると、邪悪な喜びを隠し切れないといったふうに、また火のついたように笑いだした。
キャラコさんは、なだめるような口調で、いった。
「こんな嵐では、どっちみち、泊めていただくほかはないわ。……あれは、保羅さんが、鎧扉が飛ばないようになんかやっている音よ。おどかそうたってだめ」
レエヌは、ふん、とせせら笑うと、病人とは思えないようなドスのきいた声で、
「善人は善人らしいのんきなことをいってるわね。……おどかしなもんか、本当だイ。……要するに、あんたは、あたしたちの餌食になるのさ。べつに、どうってことはありゃしない」
キャラコさんは、あっけにとられて、
「ね、どうしたのよ、レエヌさん。……すると、自殺しそこねたというのは、嘘だったのね」
「ヘッ、ばか! ……あたいの頭をごらん。どうかなっているかい?」
まるで、手に負えないのだった。
「……では、あのお手紙も……」
レエヌは、ニヤリと笑って、
「あんな手紙、だれが本気で書くもんですか。小説の焼き直しよ。……ほら、これが種本《たねほん》さ」
といいながら、枕
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