う一度くりかえした。
キャラコさんは、掌《てのひら》の中でレエヌの小さい手をしっかりとはさみとりながら、
「お手紙を見るとすぐに飛んで来たの……。ほんとに、飛ぶようにしてやって来たのよ、レエヌさん」
レエヌは、キャラコさんの手を払いのけると、瘠せた指で寝台の端をギュッと掴んで、けたたましい声で笑い出した。
「やあい、とうとう、ひっかかりやがった!」
(気がちがいかけているのかも知れない)
キャラコさんは、反射的に扉《ドア》のほうへふりかえったが、つい今まで立っていた保羅の姿はそこにはなかった。
いまにも吹き倒されるかと思うばかりに、ミリミリと家じゅうがきしみわたる。どこかで、風に煽られる鎧扉《よろいど》がバタンバタンと鳴りつづけ、それにまじって、階下《した》の扉口のほうで釘を打つような鋭い音がひびいてくる。
レエヌは、瘧《おこり》でも落ちたように、とつぜん笑いをやめ、眼を輝かしながらその音にききいっていたが、ゆっくりと枕の上で顔をまわして、キャラコさんのほうへ向きなおると、
「あなた、あの音、なんだか知っている? ……あれはね、保羅が、家じゅうの扉《ドア》や窓を釘づけにしてい
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