ア》が二人、胸をそらしてはいってくる。
 ひとりは、寝室用の細長い朝食|膳《ぜん》をもち、ひとりは、大きな銀のお盆にさまざまなたべものをのせている。
 さきに入ってきたほうが朝食膳の脚《あし》を起こしてそれをキャラコさんの膝《ひざ》の上にまたがせると、もうひとりは、銀盆をそのうえにのせ、スマートな手つきでちょっと食器の位置をあんばいし、キャラコさんの胸のへんにナプキンをひろげて出てゆく。
 いろいろなものがのっている。
 夏蜜柑《なつみかん》の冷やしたのが、丸い金色の切り口を上へ向けて、切子硝子《きりこガラス》の果物盃《カップ》の中にうずまっている。一|匙《さじ》ほどの※[#「くさかんむり/協のつくり」、第4水準2−86−11]枝《れいし》のジャム。チューブからしぼりだした白い油絵具のような、もったりとした生牛脂《クレエムフレェシュ》。蜜柑の花を浮かせた氷水《アイスウォタア》。人差し指ほどの焼き麺麭《パン》。熱いアップル・パイの上に[#「上に」は底本では「に上」]ヴァニラ・アイスクリームをのせた、れいのアイスクリーム・ア・ラ・モードというやつ。それから小さな湯わかし。その下でアルコール
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