《ダンテエル》の窓掛けの模様に見とれたり、熱心に小箪笥《コンモード》の彫刻をながめたりする。なんとなくいい気持で、うっとりとなる。
「このくらい趣味がいいと、ぜいたくだってそうすてたもんじゃないわね、結構だわ」
退役陸軍少将石井長六閣下のみごとな調教《トレエニング》のおかげで、質素の趣味をたれよりも愛しているくせに、こんなぜいたくな部屋に寝ころんでいても、ちっとも不自然な感じがしない。自分がこの部屋にしっくり調和しているような気がする。それが、ふしぎだ。
(あたしの適応性は、すこし、妙ね)
毛布を鼻のところまでひきあげて、のびのびと長くなる。またうつらうつらとなる。寝ぼけ声で、こんなふうに、つぶやく。
「骨やすめ、って、英語でなんというのかしら。……ボーン・セッティングは、骨つぎか。……骨療法《オステオパシイ》……まさか……」
おかしくなって、ひとりでクスクス笑いだす。
仏蘭西《フランス》系のカナダ人のなかで第一のお金持ち、ジャン・アマンドさんのごうしゃな快遊船《ヨット》である。鋼鉄製で、駆逐艦のような恰好をしている。
扉《ドア》をノックして英吉利《イギリス》人の室僕《バトラ
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