さしすぎる横顔が、瞬間、燐寸《マッチ》の灯《ほ》影の中へ浮びあがって、また消える。
ピエールさんは、心の中のひそかな憂悶をおし隠そうというふうに、わざとらしくほほえんで見せて、
「私は、レエヌを気の毒な娘だと思っています。誰からも愛されないし、誰からも好かれない。自分で、嫌われるように嫌われるようにしむけてゆくのです。……なにびとをも愛さなければ、どんな親切をも受けつけない。奇嬌《ききょう》で、廃頽的で、ひねくれていて、ひょっとすると、徳性《モラリティ》というものを全然持っていないようにさえ見える。……どんなものにも満足しないし、どんな環境にも落ち着いていられない。しょっちゅう、何か刺激と変化を求めてイライラしている。このへんのことは、あなたもよくご存知でしょう」
キャラコさんは、返事をしなかった。答えようとすれば、ピエールさんのいったことに同感するほかはないのが情けなかった。
ピエールさんは、努力しながらものをいっているというふうに、ときどき、度を超えた快活な調子をまぜながら、
「……率直に打ちあけますが、私自身、どんな具合にしてレエヌの気持を和《やわら》げていいのかわからなく
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