なっている。……いったい、何があんなにレエヌをいら立たせるのか、どうしても理解することができないのです。……おやおや、これぁどうも、ひどく、述懐めいて来ましたね。しかし半分は、今夜、レエヌがあなたにした無礼な仕打ちのお詫びのためでもあるのです。まあ、そのつもりで聞いていらしてください」
「あたしのためならそんなお心づかいはいりませんわ。たしかに、あたしの出しゃばりだっていけなかったのですから」
 ピエールさんは、これ以上、廻りっくどいことはいっていられないというように、急に、激した口調になって、
「ねえ、キャラコさん、いったい、なにがレエヌをあんなに自棄的にさせるのでしょう。何かお気づきになったことでもおありですか」
 キャラコさんは、当惑を感じながら、言葉すくなに、こたえた。
「あたしには、むずかしすぎる問題ですわ」
 ピエールさんは、すぐ気がついて、
「ごめんなさい。あなたを困らせるつもりではなかったのです。……それにしても、レエヌは、むかしからあんなふうだったのですか。あんなふうに虚無的《ニヒリテック》な……」
「いえ、そうは思いませんわ。うちとけないところはたしかにありましたけ
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