たのなさることは、すこし偏頗《へんぱ》だと思うんですがね。ひとのお嬢さんをちやほやするのもいいが、それならそれで、身内《みうち》のものも、もっとだいじにしたらどう?」
「ずいぶんだいじにしているつもりだ」
 エステル夫人は、チラリとキャラコさんのほうへ流眄《ながしめ》をくれて、
「おやおや。……あたしには、どうもそう思えませんがね。だいいち、ピエールが、いけない」
 ピエールさんが、ピアノのそばの椅子で、照れくさそうな顔をする。
「今度は私の番ですか、エステルおばさん」
 エステル夫人は、ピエールさんのほうへ向きなおって、
「ええ、そうですとも。あなたが、いちばんいけないんだ。じっさい、あなたの|新し好き《スノビスム》には困ってしまう。どうして、そう移りぎなんだろう。そんなことは、あんまりみっともよくないね」
 ピエールさんが、顔を赧《あか》くして、すこし、怒ったような声をだす。
「エステルおばさん、そういうあなたのなさりかただって、たいしてほめられはしませんよ」
 エステル夫人は、肚《はら》を立てて、踵《かかと》で強く床を踏む。
「あたしのことは放ってお置きなさい。なんであろうと、い
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