「いったい、どうしたの?」
と、切り出す。たれも返事をしない。結局、アマンドさんが、太刀《たち》うちを引き受ける。
「何がどうしたというんだね」
たいへんおだやかに、こういう。アマンドさんの受け方はなかなか堂にいっている。長年のうちに、悍馬《かんば》のようなエステル夫人をなだめるコツをすっかり会得してしまったらしい。
「そんなところに立っていないで、お前も仲間へはいりなさい。いま迎えにやろうと思っていたところなんだ」
エステル夫人が、はねかえす。
「よしてください、とぼけるのは。……ねえ、いったいどうしたの? どうしてレエヌをあんな目にあわせるんです。レエヌはわたしの部屋で泣いていますよ」
アマンドさんが、両手をひろげる。
「うるさくて眠られないから、静かにしてくれというので、この通り静かにしている。……これ以上、どうにもしようがない。……いったい、なにが悲しくて泣くんだね」
「悲しいのじゃありません、怒っているのです」
「いよいよもってわからないな」
「あなたがたが、皆がかりで、レエヌを怒らせてしまったのです。どうして、あの娘ばかりいじめるの。……ねえ、兄さん、このごろのあな
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