け、
釣鐘草、
ハンスの家のお祝いだ、
そうれ、ごうんとつけ。
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猪首《いくび》で、あから顔の、ずうたいの大きなベットオさんが、こんなあどけない歌を、せい一杯に声をはりあげてうたうようすは、いかにもおかしい。みな、腹をかかえて、涙をふく。
つぎに、やせたバアクレーさんが、ヒョロリと立ちあがる。近眼鏡を光らせながら、おおまじめな顔でやりだす。
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ピエロオさん、
ペンを貸しておくれ。
月の光で
ひと筆書くんだ……
[#ここで字下げ終わり]
次々に立って、珍妙な歌をとほうもない大きな声で唄う。ひとりすむたびに、われかえるような爆笑が起こる。
そんな大騒ぎの最中、とつぜん、扉《ドア》があく。
レエヌさんが、炎《ほのお》色の、放図《ほうず》もなく裾《すそ》のひろがった翼裾《ウイング・スカーフ》のソワレを着て、孔雀《くじゃく》が燃えあがったようになってはいって来た。
「たいへんな、ばか騒ぎね」
小さな頭をそびやかして、入口に近い椅子に掛け、青磁《せいじ》のようなかたい蒼《あお》い眼で、おびやかすようにみなの顔を見まわす。
イヴォンヌ
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