うやく一つ撃ち落とす。
四
レエヌさんは、頭痛がするから、今晩は食堂へ出ないそうだ。室僕《バトラア》がそれを告げに来た。
イヴォンヌさんが、ささやく。
「はずかしくて、出て来られないのよ」
けさの射撃会のことで、腹を立てているにちがいない。キャラコさんは、なんだか気がとがめてしようがない。ピエールさんのほうを見ると、ピエールさんは、すまして食事にとりかかろうとしている。
(行ってあげればいいのに)
キャラコさんは、ひとりで気をもむ。
(きっと、ひとりで、さびしがっているのにちがいないわ)
しかし、そんな出すぎたことはいわれない。自分が見舞いにゆくのはわけはないが、そんなことをしたら、いっそう、かんしゃくをつのらせるばかりだ。もだもだしているうちに、食事が始まる。
朱肉《しゅにく》色の生雲丹《なまうに》のあとで、苦蓬《エストラゴン》をいれたジェリィの鳥肉が出てくる。それから、凍甜菜《カンタループ・グラッセ》。
料理にあわせて、バニュウルとか、ボオジョレー酒とか、モルゴンなどという白や赤の葡萄酒がつがれる。料理も酒も凝《こ》りぬいたものばかりである。
キャラコさ
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