へふりかえると、アマンドさんは肩をゆすって見せる。かまわないから、やれ、というのだ。
 イヴォンヌさんが、ジッとこっちを見ている。
(やるなら、負けないで、ちょうだい)
 さっきのイヴォンヌさんの声が、耳の底によみがえる。長六閣下の顔がチラリと瞼《まぶた》の裏を横切る。キャラコさんは、すこし息ぐるしくなる。しかし、こうなった以上は、やっつけるよりしようがない。
 モリモリと闘志が湧き起こってきた。心の中で、しっかりした声で叫ぶ。
(負けないわ!)
 銃をとり直したとたんに、ヒュッとクレエが飛び出す。
 ズドン!
 つい、いまあった白いクレエはもうない。そこに、青い空があるばかり。
 ブラヴォ! みな、夢中になって手をたたく。
(こんなちっぽけな娘なのに、すごい腕前だ)
 こんどは、レエヌさんの番だ。
 銃を取って、なんだこんなものといった顔つきで、身をそらす。
 もう、癇癪《かんしゃく》を起こしている。どこもここもひどく誇張したジコップ・ピジャマの裾《すそ》が、ヒラヒラと風になびく。
 ズドン!
 クレエは、ずっと空の向うまで逃げ出してゆく。
 その次もだめ、その次もだめ。四度目に、よ
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