が、キャラコさんの背中を、ぐいとこづく。
 キャラコさんは、決心して、射撃台へあがってゆく。
 しっかり足をふんばって、銃をかまえる。
 ズドン ズドン!
 青空の真ん中で、クレエが雪のようにくだける。
 室僕《バトラア》が、装薬《そうやく》した別の銃をツイと差し出す。
 また、空に、白い小さな雪煙り。
 三つ目だけミスして、五分の四で、八十点。大喝采《だいかっさい》だ。
 果して、レエヌさんが挑戦して来た。人垣のうしろから、
「二個撃《ダブル》なんか、子供だましよ。一個撃《シングル》ならお相手するわ」
 と、甲高い声で叫ぶ。
 レエヌさんがあまりうまくないことは、みながよく知っている。二個撃《ダブル》でもあたらないのに、一個撃《シングル》でやろうというのは理窟に合わない、はじめから、けんかだ。
 まわりが、ざわめきはじめる。
 英国人の室僕《バトラア》は、キャラコさんがひいきである。いんぎんなようすで、無言で銃を差し出す。キャラコさんが、無意識に受け取る。なんとか辞退しようと考えていたところだったのに、これで、退《の》っぴきならないことになってしまった。
 困って、アマンドさんのほう
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