が、肩をピクンとさせる。
「べつに、問題になんかしていませんわ」
 イヴォンヌさんが、勇ましく、やりかえす。
「ええ、どうぞ、そうして、ちょうだい。あたしたちもそのほうが望みよ。……あたしたち、アマンドさんのお客で、あなたなんかにべつに関係はないんですから」
 レエヌさんは、超然とした眼つきでイヴォンヌさんの眼を見かえすと、だまって揺椅子《ロッキンング・チェヤ》のほうへ歩いて行ってしまった。
 アマンドさんが、新しい銃を受けとって身構える。
 ヒュッ、ヒュッと音をたてて、|粘土の標的《クレエ》が放出機《トラップ》から飛び出す。生きもののようにもつれながら海の面をすべって行ったと思うと、急角度を切って紺青《こんじょう》の空へ舞いあがる。
 ズドン、ズドン!
 まっ白なクレエは飛びあがれるだけ飛びあがっておいて、それから、スッと逆落《さかお》としに海の中へ落ちこむ。
「零点《ヌル》!……合わせて、零点《ヌル》!」
 と、ベットオさんが叫ぶ。
 みな、どっと声を合わせて笑いだす。
 アマンドさんが笑いながら射撃台から降りてきて、キャラコさんに、身ぶりで、やりなさい、という。
 イヴォンヌさん
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